怪物

湾岸署の小堺武夫刑事は、あと1ヶ月で決算課に降格される寸前だ。彼には忘れられない事件がある。15年前、8歳の少女が誘拐され、殺害された事件だ。小堺は、殺人があった現場の血の匂いを嗅ぐことができる特殊能力を持っている。その時、国会議員の息子で大学生の堂島暁の部屋でその匂いを嗅いだのだ。しかし、政治権力に阻まれ、堂島を逮捕することはできなかった。その特殊能力と正義感から厄介者扱いされ、小堺は孤立する。警察という組織への失望を募らせた。今、堂島は政治のホープとして脚光を浴びている。一方、香西には行方不明者の捜査が押し付けられる。新人刑事の石川絵美とともに行方不明者の橋爪を追ううち、高度なゴミ処理施設で思いがけず血の香りを嗅ぐことになる。そこにはDNAを溶かす水がある。そこには、日本環境研究所の研究員・正木亮の姿があった。小堺は、正木が超高温水（加圧熱水）で橋爪を「消した」ことを確信する。その時、小堺の前に15年前の事件の犯人を知っているという少女、藤寺理沙が現れる。理沙はあの事件の直前に堂島から暴行を受けていたのだ。心に傷を負いながらも堂島を告発しようとする彼女のバイタリティは、小堺の希望を取り戻し、彼を奮い立たせる。理沙の協力のもと、小堺は堂島を陥れ、真実を聞き出そうとする。しかしその最中、理沙が起こした事故により堂島は命を落とす。何としても彼女を守りたい小堺は、心の葛藤の末、ある恐ろしい行動に出る。それは、正木に堂島の死体を「超高温水で処理」させること。小堺の安堵をよそに、正木はすぐにその要求を実行に移す。しかし、罪悪感なく次々と命を絶つ正木の常人離れした言動は、香西にこれまで感じなかった非常に深い恐怖と不安を与えるのだった……。