妻と飛んだ特攻兵

1945年（昭和20年）6月、山内房子は単身、関東軍少尉である夫・節夫のいる満州に赴く。当時、日本の占領地であった満州には、20万人の日本人が入植者社会として暮らしていた。藤田秀雄の一家は荒野の開拓に励んでいたが、ソ連は北からの満州侵攻を待ち構えていた。満州の大湖山にある関東軍第五練習隊本部で、房子は無事、夫と再会する。節夫も最愛の妻を大切に思っているが、立場はやがて特攻隊となる若い兵士たちの教官である。妻を呼び寄せるべきだったか、そんな複雑な思いを指揮官である道場一夫少尉にぶつける。道場は、祖国との決戦を前に、妻を大切にしようとする節夫を気遣う。房子は道場の妻、悦から満州での生活を学ぶ。内地に比べ、野菜や米などの食料が豊富なだけでなく、空襲もない。房子の歓迎会と、節夫の同僚湯浅哲夫と井上ひさしの婚約者の祝賀会が夜な夜な開かれる。西村剛、小熊勇、木下達夫ら教官たちが酒を酌み交わし、若い兵士たちはただただ房子たちの料理に舌鼓を打つ。房子は結婚以来初めてとなる節夫との同居生活に満足し、戦争のことなど忘れたかのようだった。しかし、藤田の住む国境近くの集落は、ついにソ連軍に侵攻される。苦労して耕した畑を捨て、大雄山に避難することになる。そして、関東軍もついに出撃命令を出す。房子の平穏な日々は、あっという間に崩れ去ろうとしていた。