台湾の高雄は、1947年の二・二八事件で最も大きな被害を受けた地域の一つである。差別と国民党の弾圧に反対する蜂起が悲惨な虐殺に終わった後、台湾では40年間も二・二八事件について語ることが禁止された。戒厳令が解かれるや、侯孝賢監督は『悲情城市』(1989)でいち早く事件を世に知らせた。それから30余年、ラウ・ケクフアット監督は高雄の人々の二・二八事件に関する記憶の集合体を思い起こさせる。日本統治時代、日本軍の重要な軍事拠点であった高雄の歴史に始まり、生存者、その子孫、さらにその子孫の深い傷跡に至るまで、『ワイルド・トマトの味』は、高雄の人々の記憶の集積である。高雄には事件の記憶が野生のトマトのようにそこかしこにあり、監督はその空間と記憶を大股で、しなやかな足取りで横切っていく。
(出典:BIFF)