一番電車が走った

1945年8月9日（昭和20年）、壊滅的な被害を受けた広島の街に1台の路面電車が走り出す。生き残った電鉄会社の社員が、原爆投下の翌日から復旧作業に取り掛かっていた。曲がった線路を打ち直し、架線を張り直した。被爆からわずか3日後、何とか路線の一部で運行を再開する。運転士は10代半ばの少女で、社内の家政女学校で勉強しながら働いている。出征した男たちの代わりに、路面電車の乗務員として、さらには運転手として働いている。16歳の天田豊子(黒島結菜)もその一人だ。広島近郊の農村に生まれた豊子は、働きながら勉強ができると聞き、広島にやってきた。原爆が投下された日、彼女は朝勤の運転手をしていたが、路面電車から放り出されながらも奇跡的に助かった。今、彼女は頭に包帯を巻いて運転席に立っている。車内は家族を捜しに行く人たちでいっぱいだ。みんな希望にすがって前を見つめている。そして、終戦の日が彼らを迎えてくれる。すべてを失った広島の街に、路面電車は走り続ける。”路面電車が走れば、広島はまた活気づく！”路面電車会社の電気課長で、3人の子供を持つ男やもめの松浦明孝（阿部寛）は、1ヶ月以内に主要路線を復旧させることを命じられる。寂れた街並みを走る路面電車は、いつの間にか広島の希望になっていた。