1590年7月、小田原。豊臣秀吉の軍勢は、天下統一の夢を阻む最後の難関を攻略すべく、3カ月以上にわたって小田原城を包囲していた。小田原城の門前で、一人の男が見張りを前にして、こう叫んだ。「命を粗末にするな。生きることを大切にしろ！」。ほどなくして城門が開き、君主の降伏が実現した。その男の名は、黒田官兵衛。優れた軍師であり、秀吉と手を携えて天下統一を成し遂げた。
官兵衛の家は播磨に逃れてきており、比較的貧しかった。小寺政職の子弟として、官兵衛は主君から非常に信頼され、頼りにされていた。官兵衛が黒田家の当主となったのは、22歳のときである。政元は老齢のため、後継者が欲しいということで、愛娘の照を官兵衛に嫁がせることにした。一男一女に恵まれたが、何年経っても照が二人目を授からないので、官兵衛は家臣の幼い子供を養子にして「黒田武士」と呼ばれるようになった。
官兵衛が30歳になった頃、日本統一を目指す革新的な若殿が、徐々に諸将軍を包囲していく。播磨は、織田信長と毛利輝元との衝突の舞台となった。官兵衛は織田信長の天下統一構想に強く惹かれ、岐阜城まで会いに行っていた。そこで豊臣秀吉と知り合い、やがて秀吉の右腕となり、軍師官兵衛の誕生となった。
